- 2023年05月08日
- シンポジウム
2022 年度 病院の働き方改革シンポジウム -長崎大学および糸魚川総合病院-
令和4年度 病院の働き方改革シンポジウム
2023年3月9日(木)、長崎大学主催、株式会社ワーク・ライフバランス共催にて、4年目となる「病院の働き方改革シンポジウム」を開催しました!
長崎大学病院における働き方改革の取り組みチームによる成果の報告に加え、糸魚川総合病院の取り組みチームからもご発表、さらに千葉大学医学部附属病院 横手幸太郎病院長にも長崎大学病院 中尾一彦病院長との対談企画へゲスト登壇いただき、 ますます業界を広く巻き込んだシンポジウムとなりました。
本レポートでは、病院長対談のレポートと共に、各チームの取り組みのダイジェストをお届けします。
※シンポジウムの動画がフルバージョンでご視聴いただけます(無料)!
■対談 医師の働き方改革~その取り組みと課題~
下:千葉大学医学部附属病院 横手幸太郎病院長
右上:長崎大学病院 中尾一彦病院長
左上:株式会社ワーク・ライフバランス コンサルタント 大西友美子
基調講演として、千葉大学医学部附属病院の横手幸太郎病院長と、長崎大学病院の中尾一彦病院長が、各大学の医師の働き方改革に関する取り組みと今後の展望について、対談形式で語り合いました。
2024年を真の意味での「働き方改革のスタート」にしよう
中尾:医師の働き方改革のスタートがいよいよ来年に迫り、私たちも対応を急いでいます。今日は先進的な取り組みをしている千葉大学のお話を聞けると楽しみにしてきました。
横手:私は糖尿病やコレステロール肥満症が専門の内科医ですが、ちょうど2020年の4月にコロナの第一波と共に病院長になりました。同時に、全国医学部長病院長会議で働き方改革委員会の委員長、2022年からは会長を務めており、医師の働き方の課題は自院のみならず、全国の病院に共通する課題として取り組んできました。
中尾:全国医学部長病院長会議で先生の強いリーダーシップを見てきました。私たちは4年前から、外部のコンサルタントを招いて、ボトムアップ的に働き方改革を進めてきました。千葉大学では働き方改革に取り組む契機があったのでしょうか?
横手:直接的なきっかけはやはり2024年4月スタートする医師の働き方改革です。医師の時間外労働の上限規制という、待ったなしの法規制が引き金になったことは間違いありません。一方で、時代の要請もあります。医療や大学病院を取り巻く環境は大きく変わっています。臨床研究に要する手間が増え、医療安全に求められる水準が高まり、研究・臨床により多くの労力と時間を費やす必要が出ています。さらに、若い世代の医師は100%仕事ではなく、家庭や趣味にも一定の時間を使うことが当然という価値観があります。こうした変化を踏まえ、持続可能な医療体制をつくるために、働き方改革は避けては通れない、という思いがありました。
中尾:仰るとおりです。しかし、働き方改革の必要性を頭では理解していても若い世代とのジェネレーションギャップは常に感じますし、広範に渡る働き方改革の中で、どこから手を付けてよいのかも迷いました。そうした意味で、外部の目からアドバイスしてくれるコンサルタントの存在は大きかったですね。
働き方改革の第一歩は「現状把握」と「意識改革」
横手:働き方改革の第一歩は「現状把握」だと思います。これまでは「医師は患者さんのためならいくらでも働いて良い・働くべきだ」という価値観のもと、正確な労働時間やその内訳の把握が一切されてこなかった。大学病院の医師は臨床のほか、研究・教育も担っており、市中病院で外勤することも日常的です。一般の会社で行っているタイムカードのみ時間管理では難しいので、医師一人ひとりが小さな発信器を携帯するタイプの勤怠管理システムを導入し、誰がどこでどのくらい働いているのか、データを蓄積しました。「もう仕事が終わっているのに教授が帰らないので帰れない」といった、ムダな時間外労働の存在が見えてきました。準備期間がコロナ禍と重なったことも大きかった。もちろん時間的には厳しさを増したのですが、非常時にあって、診療科をまたいだ協力や職種を超えたタスクシフト、オンライン化など、意識改革・業務改善が一気に進んだ側面もありました。
中尾:横手先生は常々意識改革が肝要、と仰っていますね。
横手:まだ道半ばではありますが、医師の働き方改革は法令遵守のための勤務時間管理、といったように矮小化されがちですが、真に目指すところは「性別や年齢を問わず、すべての医療者が健康を確保しながら持続可能な働き方を追求する」ことです。それは労働側のニーズだけでなく、少子超高齢社会の中で医療を持続可能なものとする、社会の要請とも合致するはずです。一番大切なのは、私たち教授や経営陣の年代の意識改革でしょう。自分たちが長時間労働で育った実感があるからといって、それを次の世代に強要しない。時代は変わったのですから自分たちの価値観はいったん脇に置き、自分の子供や孫の世代が幸せに生きて働くために今何ができるのか。それをしっかり意識することが必要です。
地域医療構想・偏在化対策含めた「三位一体改革」を
中尾:長崎大学病院では4年間、部門ごとの働き方改革を進めてきて、小さな成功体験を積み重ねてきました。今後はこうした成功事例を共有して、病院全体に広めていけたらと思っています。2024年スタートの要件を満たすべく体制を整備し、日々の働き方改革を後押ししていくのが経営側の仕事でしょう。でも、1つの大学病院だけではできることの限界を感じるのも事実です。
横手:その通りです。そもそも、医師の働き方改革は、「地域医療構想」と「医師の偏在化対策」、この3つの柱を合わせた、医療の三位一体改革として進められるはずだったのです。ところが、残り2つの改革がさまざまな要因から停滞しており、この働き方改革だけが先行して進んでしまったのが現状といえるでしょう。
つまり、医師の働き方改革だけ進めても、日本の医療を巡る問題の根本的な解決にはならないのです。遅くともあと10年の間にこの3つの改革を並行して一気に進めないと、働き方改革が進まないだけでなく、日本の医療そのものが破綻する危険がある。これは病院の中だけで進められることではないので、国や都道府県に改めて指導力を発揮していただく必要があります。
そしてもう一つ、こうした状況に対する、患者さんをはじめとした社会全体の理解が必要です。たとえば、「これまで土日夜間にも病状説明に対応していたところ、今後は平日昼間に限らせてもらう」、「これまで主治医がすべて診ていたところを、チーム制でほかの医師が担当する」といったことが出てきます。患者さんやご家族は戸惑うこともあるでしょうが、医師の健康確保と日本の医療維持のために必要なのだ、とご理解いただかなくてはならない。こうした活動はまだまだ足りていないので、今後私たち医療者が官公庁やメディアなどとも力をあわせて進めなくてはならないでしょう。
中尾:仰るとおりです。たとえば、地域の2次救急医療を考えた場合、中規模病院で夜間の救急医療を担っているのは大学病院の若手医師が中心です。それが時間外労働規制で働けないとなると、まさに地域の2次救急体制に影響が出てきます。また大学病院から複数の中規模病院に医師を派遣するより、機能分化を図って特定の病院にまとめて派遣するほうが医師の研鑽になり、かつ休みやすくなり、はるかに効率がよいのです。地域医療構想や機能分化といった行政改革なしでは本当の意味での医師の働き方改革はできないのです。2024年を機に、いよいよ本気で取り組まねば間に合わない。そんな危機感を持っています。
横手:医師の働き方改革は新型コロナウイルス感染症流行と同様、初めてのことで決まった正解はないと思っています。この大きな変革に対峙し、私たち医療者が中心となって新しい時代を作り出していかねばならない。とはいえ、深刻に捉え過ぎず、知恵を出し合い、前向きに取り組んでいきたいと思います。皆さん、共に頑張りましょう。
■働き方改革の取り組んだチームよる成果の報告(ダイジェスト)
1.長崎大学病院 眼科
発表:眼科 原田 史織氏
眼科では、5 つもの課題解決施策に着手。中でも、カンファレンスの効率化では、議題毎に所要時間の実績を計測したうえで、それぞれに標準所要時間を設定。明確にこれを意識した各担当者の発表・準備と進行を行うようになったことで、12%の時間が削減されました。
また、雑務の軽減においては、手間となっている雑務を洗い出したうえで、医療事務補助者・病棟クラークへの記入代行依頼等の対応方法を決定。医療情報部のスタッフもこの検討会議に同席し、その場で具体的な対応方針が示されたこともあり、9 つの文書処理のタスクシフトが実現しました。
発表内容の詳細はコチラ!
2.長崎大学病院 薬剤部
発表:薬剤部 今村政信氏
薬剤部では、4 つの課題解決施策に着手。中でも人員調整の効率化・透明化は効果を発揮しました。これまでは人員調整の判断・声掛けを副部長ひとりが担い負担が大きく、ヘルプを行う部署に偏りが生じていました。そこでオンライン上で共同アクセス・編集が可能な表を作成。各室長が応援の要請・要請への対応・各室の状況を記入することで、効率的で透明性の高い助け合いが可能となりました。
施策の効果について、部内の調査では、「使用前と比較し薬剤部全体の協力体制ができていると思うか?」には 83%、「今後も、ヘルプ調整シートの使用を希望するか?」には 100%の、ポジティブな回答が得られました。
発表内容の詳細はコチラ!
3.糸魚川総合病院 看護師チーム
発表:看護部 小竹都子氏・中村比佐枝氏
糸魚川総合病院の看護師チームでは、主任看護師をリーダーとし、各病棟から代表となる看護師を選出。20~50 代の 8 名で構成された 2 チーム体制で取り組みをしました。「定時
に帰れて、心にゆとりを持って患者さんとの関わる時間が取れ、ケアをしっかり行える」という「ありたい姿」に向かって、「減らしたい時間」として挙がった業務から「看護師でな
くてもできる業務」「効率化でなくせる業務」「医事課に依頼できる業務」を抽出し、「緊急性のあるもの・重要度が高いもの」から削減する方法を検討していきました。
多数実施した施策の中でも議事録作成、研修後のアンケート集計は IT 化を進め、議事録作成の削減策として、会議にパソコンを持ち込み、会議中に議事録を作成するようにしたとこ
ろ、今まで 1 人当たり 1 時間/月程度かかっていたものが 15 分程度、チームの年間当たりに換算すると 9 時間の削減となりました。
発表内容の詳細はcoming soon!!
シンポジウムは、すべてZOOMによるオンライン接続にて発表が行われ、全国へ配信されました。さらに詳しい内容はぜひ、シンポジウムの動画をご視聴ください!
※フルバージョンでご視聴いただけます(無料)
初の平日・日中での開催ということもあって、全国各地 170 名以上の参加者から申し込みがあり、視聴されました。発表に対し多数の具体的な質問が投稿され、病院における働き方改革への関心の高さが伺えます。今後も、今回登壇や発表のあった病院の取り組み、そして医療業界の働き方改革にご注目ください!